「データマネジメントのレベルを上げて、正しい情報を正しい人へ届ける」シンフォニーマーケティング 庭山一郎氏×西内啓対談 Vol.3
データマネジメントのどこにお金をかけるか
西内 御社のデータマネージャーが毎日日経新聞で部署の再編をチェックしないといけなくなりますね(苦笑)。
庭山 弊社でもチェックをしようとしたことがあったのですが、そのコストはお客さま側では払ってくれないんですよ。
私は、メールアドレス1つで細く長くつながりましょうと言っています。大きな会社は部署異動により、勤務地が変更になることも多く、そうなると住所も電話番号も変わる可能性があります。しかし、メールアドレスは変わりません。これならデータのメンテナンス費用はかかりませんし、万が一その人が製品購入の可能性が高くなって電話をかける必要が生じたら、そこから追いかければいいのです。
データマネジメントのどこにお金をかけるかという問題もものすごく重要なファクターです。以前ある会社のマーケティングの人が、営業になるべくいいリードを渡したいという思いから、全データに与信情報をつけたんですね。
ですが、与信は年3〜4回更新されるので、莫大な費用がかかるんです。これについて営業は、最終見積もりの中の取引条件を考える時に自分たちでリスクヘッジするから、マーケティングは余計なことをしなくていいと言うわけです。
マーケティングの評価を定量化して精度を上げる
西内 難しい部分ですね。先ほどおっしゃったセグメントを3つに分けるというところ以外に、ここは気をつけた方がいいというところはありますか?
庭山 マーケティングの評価をする時に、実際に渡した案件がクロージングまでの道をパイプラインで進んでいるかどうかはとても重要です。日本の場合は特に個々の営業が強いこともあって、CRMツールが入っている会社でも案件のステイタスの定義が揃っていないことが多いんですよ。
これを整理するのは非常に大変です。例えばアポイントが取れたもののランクを「S5」、受注段階を「S1」としましょう。そのとき「S4」の定義は何かといえば、営業が訪問して「好感触だ」と思ったものだと言うのですが、「好感触」の基準は人によって違いますよね。これをマーケティングの評価にできるように定量化する必要があります。
この点、弊社のお客さまはどうしてるかというと、まずマーケティング担当者がアポイントまでとります。アポイントを取ったら営業が訪問して、訪問後1か月以内に次のアクションをするかという設問にイエスかノーで答えてもらうのです。そうしてマーケティングの精度が上がってくると、属性情報からそのまま営業活動を進めるべきか、それともここでやめるべきかが判断できます。
正しい人に、正しい情報を、正しいタイミングで届ける
西内 データを使ったマーケティングはこれからどう変わっていくか、庭山さんはどのようにお考えですか?
庭山 マーケティング屋は役に立たない製品の拡販はやりたくないんですね。逆に言うと、絶対に売れてしかるべき素晴らしい製品、サービス、プロダクトを正しく売れるようにしたいのです。その製品で解決できる問題で悩んでいる人に、製品の情報を正しく届ける仕組みをつくり上げたいですね。正しい人に、正しい情報を、正しいタイミングで届けるというのは50年前からの原理原則ですが、これができていないんですよ。
例えば、「統計ツールが倍売れる方法」というDMが西内さんに届いたら、ちょっと興味があるでしょう?
このように、統計が分かっている人にとってすべての統計の情報がノイズであるというわけでもないのです。ですから、誰に、どんな情報が必要か、一番いいタイミングはいつかと識別することを極めていきたいという思いがあります。
アメリカでは、昔はソフィスケイテッドデータ(洗練されたデータ)がなければマーケティングはできないと言われていたのが、この2、3年はハイジーン(清潔、健全)なデータという言葉に変わってきたんですね。アカウントベースドマーケティング(ABM)(※)が登場し、データマネジメントのレベルがより高くなったことで、データドリブンのレベルが上がってきました。そうするとより具体的なデータをつくることができるのです。
日本はまだまだですが、データマネジメントのレベルが上がればコンテンツのレベルが上がり、解析のレベルも上がります。それを高速で回していって、マーケティングを良くしていきたいと思っています。
西内 本日は貴重なお話をありがとうございました。