「経験と勘」のタクシー営業がデジタルにシフトした Mobility Technologies 川鍋一朗氏×西内啓対談 Vol.1
「タクシー産業の定義が変わる」シリコンバレーでUberを見て受けた衝撃
西内 JapanTaxi(現Mobility Technologies)では2011年に日本で初めてタクシー配車アプリをリリースし、現在では『GO』を展開しています。会社としてデジタル側にピボットしてきた経緯を教えていただけますか?
川鍋 本業であるタクシー事業の半分がデジタルになったことが大きいですね。日本交通のグループ会社であるJapanTaxi(現Mobility Technologies)は2011年1月に『日本交通タクシー配車』アプリをリリースしましたが、当時はまだ、あくまでタクシー配車というオペレーションの中の1ツールという位置づけだったんです。
転機になったのは、2013年です。私は以前、アメリカに4年間住んでいたことがあって、久しぶりにシリコンバレーを訪れたんです。そこでUberを見て、タクシー産業自体の定義が変わったと感じました。それまでオペレーション大陸にいたタクシー産業が地殻変動を起こして、IT大陸に乗り上げたような感覚です。
それまでは、ベテラン乗務員が街を「流して」お客様とのマッチングをするというのがタクシーのコアの要素でした。そのコアの部分がアプリに置き換わり、タクシー側のデータもお客様側のデータも残るようになったんです。シリコンバレー的なデータ分析の世界に飛んでいったんだなということを直感的に感じて、背筋に寒いものが走りましたね。
2000年に日本交通に入社して、社長に就任したのが2005年。当時は8年ほど社長を務めていましたが、オペレーションは一緒にやってきた仲間に任せて、自分はテクノロジーの方向にフルコミットすることにしたんです。
具体的に動いたのは2015年でした。8月の定時株主総会で日本交通の社長を退き、それ以来の5年間はタクシー業界のDXを促すため、JapanTaxiの社長としてタクシー配車アプリ『JapanTaxi』を展開してきました。2020年4月には最大のライバルだったDeNAの『MOV』などと合併して、Mobility Technologies の会長に就任したんです。
西内 10年程前は各タクシー会社ごとにそれぞれアプリがあって、それを一元的にまとめて1つのアプリで複数のタクシー会社のタクシーが呼べるようにしたのが『JapanTaxi』アプリだったと認識しています。
川鍋 そうです。当初のアプリは日本交通だけに閉じていましたが、TwitterなどのSNSで「大阪でも使いたい」といったお客様の声が投稿されていたり、名古屋のタクシー会社の社長さんから「アプリを売ってほしい」と直接電話があったり、これは全国で展開したほうがいいということで2011年12月、『全国タクシー配車』(その後『JapanTaxi』アプリへリニューアル)というアプリをリリースしました。
プラットフォーマーになろうという意思があってそうしたわけではありませんが、お客様側からもタクシー業界からも「アプリを使いたい」という声があがって、結果的にこういった形になりましたね。
マンパワーで行っていた配車予約をアルゴリズムに置き換えることで精度が向上
西内 自分もよく『GO』を利用しています。このアプリが登場する前は、雨が降っている日はタクシーを捕まえようとしても空車が見つからなかったり、予約をしようにも電話がつながらなかったりしていました。その後『JapanTaxi』アプリがリリースされ、そして『GO』の時代になると、数分でタクシーを捕まえられるようになりました。これはとても大きな変化だと思います。
加入するタクシー会社が増えていることに加えて、御社で導入している「AI予約(※)」という仕組みも背景にあるのではないかと考えていますが、そうした需要と供給をマッチさせるような仕組みはどうなっているのでしょうか。
川鍋 『JapanTaxi』アプリ の頃は限られた事業者の中で、マンパワーで配車予約を受けていましたが、現在の『GO』では「AI予約」という形で、完全にアルゴリズムにすることでかなり精度が上がりました。こうしたテクノロジージャンプ以外に、新型コロナの影響でタクシーの需要自体が減ったという状況も重なっています。
今後コロナ禍が収束したら状況が変わるのかもしれませんが、そうなったら今度はダイナミックプライシングのような要素を取り入れることで需給のバランスを取っていけるのではないかと思っています。
『JapanTaxi』アプリと『MOV』はそれぞれ150〜200人のエンジニアを抱えて作られていました。これらを統合したことで、社内のテクノロジーパワーもかなり上がったと思っています。
西内 なるほど。マッチングアルゴリズムによって当然最適化は進むわけですが、そもそも需要がありそうなところを走る「流し」をうまく設計することはできないのでしょうか。
川鍋 今まさに『お客様探索ナビ』として商品化しているところです。これは、以前は需要がありそうな場所をヒートスポットとしてマップ上に示す機能だったのですが、現在はナビで「次を右へ、その次を左へ曲がってください」というふうに、需要がありそうな場所に具体的に誘導するようにしています。
このナビが誘導するルートの遵守率が50%を超えると、1日の売上が3,000円ほど上がるという結果が出ています。私も1ヶ月間乗務員をしたことがあるのでわかるのですが、ルートを遵守するのは意外と大変なんです。ときに自分が詳しくない道を通るようなルートを提示されることがあるんですよね。
乗務員さんにいかにルート通りに走ってもらうかという課題はありますが、そこをクリアすれば売上は上がる、ということがわかっています。
(続きます)