「データを見て迷宮入りするときは"何がどうなったら嬉しいか"を先に決める 」サツドラホールディングス富山浩樹氏×西内啓対談 Vol.2
データを見て迷宮入りするときは「何がどうなったら嬉しいか」を先に決める
富山 私が2019年から取締役を務めているコンサドーレ札幌は、マーケティングが課題になっていました。この課題を解消するためペルソナを立てることになったのですが、データだけでペルソナを考えると迷宮入りしていくんですね。そこで、データを見る前にまず仮説を立てることにしたんです。
現場で培った肌感を持っている営業の皆さんに、わざとデータを見せずにペルソナを描いてもらいました。それで、そのペルソナに合致する人が実際に何回試合を見にきて、どういうエンゲージメントだったかという答え合わせのためにデータを見て、プランニングにつなげています。
データを活用しようとするときに、データだけを見て迷宮入りしてしまうのは、いろいろな企業さんが陥る落とし穴ではないかと思っています。
西内 富山さんがおっしゃるように、データだけを虚心坦懐に見て「迷宮入り」してしまう時は「何がどうなったら嬉しいか」を先に決めることです。
クラブチームにとって何が分かれば嬉しいかといえば、「永続的にお金を落としてくれる」「試合を観戦しに来てくれる」「高額なチケットを買ってくれる」などでしょう。それ以外にも「グッズを買ってくれる」「シーズンチケットを買ってくれる」なども挙げられます。
逆に、チケットの売れ行きがよすぎてスタジアムが混みすぎているときには、シーズンチケットの割引率を減らすとか、そのチームのステージによって立てる仮説が異なってくると思います。我々のゴールはこれを最大化することなんです。
さらに、KGI(Key Goal Indicatorの略、重要目標達成指標)を決めた上で仮説を立てれば予測の精度を上げられます。例えば、肌感覚として来場者の方に子連れのお母さん方が多いのであれば、データを使ってそれを可視化することで、そういった方はどれぐらいのライフタイムバリューなのか、それは一般的な平均単価とは異なるのかが分かります。
もう少し細かく見ると、そのお母さん方は何歳ぐらいまで子供と一緒に来場してくれるのかを分析して、この壁を越えるためにどうすればいいのか、壁が越えられないのであれば次に来場してくれるタイミングはいつになるのか…というふうに掘り下げることで、施策のネタができるという感じですね。
店舗は販促よりも機会損失をしないためにデータを使うべき
西内 御社ではPOSシステムの開発事業を行うGRIT WORKS株式会社を作られたそうですが、その辺りの取り組みについてもお話を聞かせていただけますか。
富山 GRIT WORKSを作ったのも、やはりエゾカ事業がきっかけでした。これは業界全体が抱えている問題なのですが、POSレジは、ハードウェアに最適化されたソフトウェアがセットになっているのが当然のこととされていて、ソフトウェアの柔軟性が低く、やりたいことをやろうとすると毎回時間とお金がかかってしまうという状態なんです。
ですが我々はクラウドを使ってリアルタイムにポイントを処理をしたいと考えていました。そこで、クラウドを使ったソフトウェアの開発をしようという意思決定をしたのが今につながっています。システムの柔軟性は業界全体の課題なので、サツドラだけでなく外販もしていこうということでGRIT WORKSを設立した次第です。
西内 なるほど。私たちは、POSの周辺にいる店長さんといった層がデータサイエンスを活用できるようになるためにはどうしたらいいかを考えています。実際にサツドラの店舗の店長さんがデータドリブンに意思決定をして、それが地域のためになっているとすればとてもいいことですね。
富山 とはいっても、私は店側が見る数字はそれほど多くなくていいのではないかと思っています。私たちは2万SKUほどの商品点数を抱えていますので、店舗で働く人がデータを細部まで見てしまうと、時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。
仮説と同じである程度絞り込んだほうがいいのではないでしょうか。それと、もっと売れそうな商品を見つけるのも必要ですが、より優先すべきは機会損失をせずにその商品がきちんと展開されているかだと考えています。
お店が使う今後のデータもそうですし、 IT を活用する時の UI や UX をいかにシンプルにできるかというのも課題だと思いますね。何もできないのにデータを見せられても、そのうちに関心が薄れていきます。データをもとに自分が起こしたアクションがどうつながっていくかという興味関心を醸成していくのかがとても重要です。